寒い夜

明らかに今シーズン一番の寒さだった。会社を出たらとんでもなく冷たい風を受けて、身体の輪郭が無理やり際立たせられた感じで、呼吸をくりかえしてるだけで、体温がみるみるうちに外へ逃げてしまいそうだ。

ふと見たら、コートの表面に白い小さなゴミがいっぱい付いていて、うわ、なんだこれはと思って、手ではらったらゴミではなくて雪だった。見上げると、ビルに挟まれた狭い夜空から、微細な塵のような雪が宙を舞いながらゆっくりと落ちてくるのだ。たぶん長く降り続く雪ではなさそうだけど、それにしても厳しい夜になった。きっと開けられたドアや、窓や、仕切りのない部屋のことごとくが、その場にいる人にとっては辛い。誰かが出入りして、何かが動く、そのたびに冷気がさーっと入り込んでくるのを、黙ってじっと耐える夜になるだろうと思った。