休みの一日は読みかけの本を積み重ねて一冊ずつ読んでいき、飽きたら次の本に変えて、そうしているとあっというまに夕方になってしまった。少しうとうとして、そしたら夢を見て、凄い台風の暴風雨の中に自分がいて、立っているのもやっとの状態でふらふらと実家の家の傍の、国道沿いあたりを歩いていると、目の前で、あまりの風圧に一軒家がぐらぐらと揺らいで傾ぎ始めて、あれよあれよというまに、ばらばらと細かく屋根から窓から玄関から、細かい部分から薄く剥離し始めて風に舞いながら容赦なくめくりあがり吹き飛ばされて、これはもう、ああ、と思う間もなく家全体の形状そのものが薄い膜の折り重なったものが斜めに崩れてだらっとトランプの札を手で広げたみたいに潰れて、その後で屋根や庇のあたりに付いていた筈の細かい破片がくるくると不穏に揺らぎながら、かなりのスピードでこちらに向けて飛んできて、それが直撃するとたぶん僕の身体は大事件になるはずだが、比較的余裕のある時間内に僕は数歩だけ歩いて近くの塀に身を隠し、さっきまで僕がいた場所を無数の破片群が激しい音を立てながら通り抜けていった。たぶん三十分ほど寝ていたようで、目が覚めて、雨が降らないうちにと思って、買い物に行く。帰りに空が、みるみるうちに暗い雨雲に覆われ始める。鉛色の、自然の色とは思えないようなあざとい暗さが広がり、前景の建物や電線などがすべて、まるで輪郭が強調されてぐっと数メートル手前に近くに迫ってきたかのような錯覚の景色になる。あと一分もしたら降り出してもおかしくないような雰囲気で、急いで歩いて帰ったけれど結局雨は降らず、そのまま空が夜に近づいてあたり全体が夜の暗さに上塗りされていった。家に着いた頃にはほとんど何も見えないほど暗くなっていて、あたりの様子はおろか、買い物袋をぶら下げている自分の手の先すら見えなくなっていた。エレベーターホールに入ると蛍光灯の光の下は明るく、そこに誰か、真っ黒な影を落とした女性が一人いて、こんばんわと挨拶する。その人と一緒に二階まで上がった。今日は外にいても空気に冷たさがなくて、ほとんど寒くない。家に戻ったら室内の空気がよほど暑いように思われた。しばらくしてから、ヤマト運輸がマンション入口のドアチャイムを鳴らした。モニタで見ると、ヤマトの配達員の後ろになぜかさっきの女性がいた。鍵を開けたら、配達員と女性が一緒に中に入るのがモニタの映像で見えた。配達員と女性はたぶんエレベーターに二人で乗って二階まで上がった。しばらくして、チャイムの音がした。玄関のドアを開けたら、誰もいない。おかしいなと思って、ちょっと身を乗り出してあたりを見回したら、さっきの女性が目の前を左から右へすーっと通過した。あれ…と思ったら、ドアの陰からふいに、ヤマトの配達員がぐっと身を乗り出して僕に笑顔を向けた。はははは。すいませんでした。お荷物です。そう言われた。よくわからないけど、とにかく僕としては受領印を捺印した。