発車直前のバスに乗ることができた。運転席のすぐ脇の手すりにつかまって前を見たら大きなフロントガラスいっぱいに雪の欠片が、まるで深海をうごめく微生物のように上へ下へと舞い散っているのが、映写されたフェイク映像を見ているようだった。路面や舗道の脇やフェンスや店先の看板などありとあらゆるものの端々にみるみるうちに雪は付着して、いちど始まってしまったらあっという間に何もかもを白く染めていく。ちょうど今がその途中経過だった。行き交う車も歩道を急ぐ人々も、手遅れにならぬうちになるべく早めに日常の動きを完結させたくて、誰もが足早に動き回っていた。黒く湿った地面が白く変わっていくのを、忌々しく思う人も気分良く思う人もいた。この後の夜の時間が楽しみで仕方のない子たちは、コンビニの前にしゃがんでお菓子やなんかを食べながら互いに笑い崩した顔を降りしきる雪に向けていた。