エブリバディ・ラブズ・サンシャイン


柴崎友香の小説「エブリバディ・ラブズ・サンシャイン」を読んで、かなり良い話で切なくほろ苦い感じで幸福な時間であった。とはいえ、主人公の寝っぷりがすごくて結構笑った。24時間寝てしまうとか、行った先でも帰った後でも寝てしまうとか、この小説の主人公はとにかくもう、どこまでも寝る。アタリ・ティーンエイジ・ライオットという固有名を超・久しぶりに目にしたけど、あれがステージで鳴ってるときに寝てしまうというのは、ほとんどものすごいと思う。しかし睡眠の持続も体力が必要なのであって、こういう寝っぷりはそれすなわち若さそのものの表出と言える。ただ、ひたすら眠る事の、そのまどろみの中だけにとどまる、という事だけでしか維持できない事があるのだというのは、とてもよくわかる。


僕も大昔のまだ若いときの一時期はよく寝てた事があったし、その長い眠りから覚めた後の、現実の再来のおどろくべき感触を、いつまでも布団の中で受け止める寸前のところで弄びながら、続けてやってくる冷たくて新鮮な孤独感の甘美さに泣きたいほどの愉悦をおぼえながら、いつまでもその場にとどまってもいた事もあった。あれがいつの事で、どのくらいの期間そうしていたのかは、ほぼ曖昧にしか記憶にないのだが…。


当時つきあってた友人にも、やたらと寝るヤツがいたなとも思う。僕の場合、自分が寝てる分にはいいんだけど、自分以外の人がどこまでも延々と寝てると、結構イラつくのが短所あった。こいつどんだけ寝るんだよ、とか思って、場合によってはあからさまに不機嫌になったりもした。僕は元々だらしなくて面倒くさい事が嫌いなズボラな人間なのだが、それでも他人には、起きてろよ!とりあえずうわべだけでも、かちっとさせとけよ!と平気で要求するようなところもあって、非常に困った性格の側面もあるのである。だからある意味、いつまでも不幸なんですけど。まあでもそれはそれでよろしい。


僕も大昔は、友達同士連れ立ってクルマでどこかに行った経験くらいあるのだが、その道程の帰り道は皆、猛烈な睡魔との闘いになるものだけど、後部座席のやつらが全員寝てしまったので、助手席に座ってた僕は後ろを見て、あーあ、みんな寝ちゃったよ、と言って、ハンドルを握って運転してるヤツの方を見た。そしたら驚愕すべきことに、その運転してるヤツは口をぽかんとあけて、眉間に深刻そうな皺をうかべ、ゾンビのような白目を剥いていた。そしてよく耳を澄ますと、静かに、低いイビキを鼻から漏らしていたのである。…気付くとクルマは、ゆりかごのように蛇行していた。走行中の車内にいる数人が全員寝ていて、起きているのは助手席の僕だけ、という状況があのとき、確かに現実の出来事としてあったのだ。。


その後何年かたって、既に会社員になってから、それでも今からふりかえれば、かなり前の話だが、僕が以前会社でおつきあいのあったある人の中にも、そういう、激しく寝る人というのはいた。この人は、人通りの多いフロアの一角とかで、こちらがその人の隣に座って、割と分厚い資料とかを手で持って、それらを見ながらひとつひとつ説明していると、はい、えぇ、あーなるほど、はい。はい…。と、いちいちうなずきながら聞いていてくれるのだが、しかし10分ほど経過するとお、あーなるほど、はい、はい、はい…などと言ってうなずいていた後に、すーっと、あっという間にそのまま、完全に寝てしまうのである!!そして、20秒ほど経過してから、おもむろに目を開けて…うーんなるほど、じゃあそこは、そういう事ですか…とか、もっともらしい事を言いつつ、元の位置に復帰しようとするのであった!!その流れにいきなり「寝」が挿入されてしまう事もすごいが、それがまだ目の前の僕にばれてなくて、まだ完全にはやぶれていない、まだ取りつくろえる、と考えてる事にも度肝を抜かれた。そんなすごい人であった。


あと、それで更に思い出してしまったのだが、そういえば昔、テレビで見たのだけど、スマップの香取慎吾も、そういう感じで寝ていた。確かトーク番組で、ゲストが宮藤官九郎で、何らかのやりとりがあって、宮藤が香取に、どう思います?とか、そういう風に訪ねたのである。そしたら香取は、うーんそうですねー…とか言って、少しうつむいて下に目線を落とし、その直後、ほんの数秒だけの事だが、そこで明らかに、香取はすーっと寝たのである。で、数秒後に、いやーそれは…とか何とか、直前の流れから何事も無かったかのように繋げようとしたのである!しかし宮藤はその一連の流れにしっかり気づき、っていうか、ちょっと香取さん今、ものすごいタイミングで寝ましたよね!?と突っ込んだ。香取はいや、寝てないです、と真顔で否定していたが、アレは誰がどうみても一瞬寝た。そういう事もあるのだ。