「次の町まで、きみはどんな歌をうたうの?」柴崎友香


柴崎友香の表題タイトルの小説を読む。マーチに4人も乗り込んだ状態で大阪から東京へ行くなどという時点で、想像しただけで疲れそうで、うわー…と思う。とくに後部座席だと死ぬほど疲れると思うけど…というか男は割とどうでもいいけど女の子はしんどいだろなあと思う。るりちゃんが途中で靴を脱いで立て膝になってるところとか、かなり可哀想である。でもまあ、学生のときなんて、身体的なかったるさとか面倒くささや長時間同じ姿勢を強いられる苦痛とか、そういうのを絶対回避したいという気持ち自体があまり無くて、ただ何となく成り行きでそういう事になって、途中ちょっと疲れてしまったりしながらもそんな事は後で忘れてしまい、そんなつまらない事よりももっと別の関心で頭がいっぱいなのだから、それでいいのだ。っていうか、今の僕が、そういうのをあらかじめ嫌だとか言って忌避しすぎなのだ。僕も、そしてウチの妻もだが。でもおそらくおもに僕が、面倒を嫌う。情けない事だ。街中や駅構内や電車内で、年老いた老夫婦がお互いを支えあいながらヨタヨタとゆっくり歩いていたりするのを見ると、最近の僕はいつも、正直ぞっとする。。数年後の自分と妻を見るような思いがするのだ。それはほとんど恐怖に近い感覚である。こんな風になるのだ、こんな風に移動するのは、どれだけ大変な事なのだろう?と思う。おそらく今の自分は友達同士で狭いマーチに四人で乗って走るのも嫌だし、ヨタヨタと支えあって歩く老人にもなれないのだ。ほんとうに今の僕は死ねというか、人生で一番駄目なところにいるのかもしれないが。


まあでも、それはさておくとしても、どうも日本で車を使った旅行というのは、かったるさばかり感じてしまう。アメリカ映画のデカイぼろい車がだだっ広い道をずーっと直進し続けながらジョン・ルーリーがコンパネにどかーんと足を乗っけてラクチンそうにしてたのとは、まるで別の風土に暮らしてるのだろう。まあ個人的には、やはり国内における移動は電車がいいと思います。


で、この物語は、上野でわーっとなった後、4人が別れて、しかしまた新たな組成がおこり、今度は別の車で、別の目的をもって、木更津から海へという、それまでとは別の方角への、とりあえず新しい移動が示されて、それで終わりを迎えるのだが、この瞬間の開放感は最高である。ほんとに、この小説は、大阪〜東京間のぐーっと長い直線と、上野〜木更津までの小休止的な移動と、海を向いたふたつめの移動との、途中で進路をカクッと変えたたゆまぬ移動の軌跡だけが印象に残るような感じである。