待ち


駅とか店とかで、誰かが来るのをずっと待っていた経験はない。あるかもしれないがおぼえていない。しかし特定の誰かを待つのではなく、単に、その場にじっとしていた事ならあるかもしれない。それでも単にぼーっとしてるのではなくて、何かを待っているのだ。具体的ではないものを待つ。何を待っているのかは、自分にもわからない。だからぼーっとしてるわけではないにせよ、べつに焦燥も不安もないので、なんとなくその磁場に引き止められて、固定視線で人々の行き交いを眺めているだけみたいな。そうやってしばらく一箇所にじっとして佇んでいたことならある。たぶんそれが待ちの状態なのだろうとは思う。でも具体的な何かではないものを待つという状態で、それならやった事はある。そう思った。今日は仕事で神田に立ち寄って、駅を出たら雨が降っていた。ああ雨だ。でもまあいいやと思って歩き出した。そしたら5分もしないうちに雨はやんだ。ああ何かを待ってる感じを、そのとき今思い出したと思った。前ならもっと自分は、ちょくちょく、色々と待ったりもしたものだ。最近は待たない。ぜんぜん待たない。スナップ写真みたいに薄っぺらなつまらない思い出ばかりが何枚も何枚も増えるばかり。