You


自分自身の体重を支えるのに精一杯な状態で壁に寄りかかっている。今にも尻餅を突いて地面に倒れこみそうな程ふらふらの状態で、それでもなんとか、折れ曲がろうとする両膝の関節にありったけの力を蓄えて、自分自身を一本の棒に思って、直立の状態で固定させて、折れ曲がろうとする上半身の背中をなんとか壁にくっつけたままにしていようと努力している。ときおりこちらを、ちらちらと見るのは一体どういうわけなのか。おれはまだ大丈夫だ、おれはまだ全然問題ない、という意味なのか。よくはわからないが、とにかく重力の過重は容赦がなく、崩落寸前の情況は変わりなく、ふと気を許せばたちまちのうちに腰から上が深く折り曲がって、頭が真横を向き、そのまま真下へと下がり、崩れ落ちる一歩手前で踏みとどまって、ふいに稼動を始めた両腕がいきなり、なにかに、掴まろうとするのか、すがりつこうとするのか、とにかく闇雲に、触手のように前方をあてずっぽうにまさぐって、いい加減に振り回された二本の棒が空間をさまよっているみたいに揺れ動いている。おそらく腕二本だけが別々に生きて何か目的をもっている。感度の良い場所を探す自動アンテナのように、ひたすらゆらゆらと触れる先を求めて動いている。そうやって、ずっとそこに、一体いつからこうしているのか。なぜここにいるのか。帰る家はないのか?腕だけが帰ろうとしているのか。帰りたくないのか。ただひたすら、ゆらゆらと、重力のもとで、重さの重みにしたがって、重さというものが今、重いという事実に、まったく無抵抗なままに、そのようこの私を、世間に対していきなり晒したまま、この人通りの多い一角に、いつまでもこうして佇んで、身体全体はなおもゆらゆらと揺れ動いている。立ったまま、壁にもたれていて、ただそのまま、おそらくはすでにほとんど意識を失っている状態で、何か、おそらく過去の夢を見ながら、ああして両腕で虚空をまさぐっているのか。ふたたび片膝が、ガクッと折れ曲がり、その勢いで身体全体が何度となく崩れ落ちそうになり、すんでのところで踏みとどまり、またずるずると元の位置にまで下半身を戻して、上半身はもはや仕掛け人形の中に張られたタコ糸のテンションだけで結びつけられているだけで、その一本か二本でかろうじて腰に付着しているだけの、ゴムの筒みたいな軟体棒みたいな感じで、さらにその上にくっついてる頭部の、さっきからずっと下方向を向きっぱなしの、生えた髪が全部逆立っていて、泥に汚れた幽霊のような、水から引き上げられた長髪の水死体のような感じで、顔の表情はまったくうかがい知ることができない。先に帰りますよ、お疲れ様でしたと、小さな声で呼びかけたら、やはりいつものように返事はない。