満月だと言うからベランダに出て月を見た。たしかに煌々と丸い月が夜空を照らしていた。すごい、満月だ。と言ったら、満月は明日だと妻が言う。でも僕は今日で充分だ。明日もまあ見ないでもないだろうが、今日でも充分だ。たぶん、満月の一日前の夜を、ことさら好む人も世の中にはきっといるだろう。というかおそらくそういう人は、ふと月を見たいと思って夜空を見上げたら、すごいきれいな月で、そんな風に感じる夜に限って必ず、なぜか満月の一日前という経験ばかり持つ人に違いない。だからいつも、満月一日前の月が最高だと言い張っているのだが、実はどういうわけだかいつも、一日前にしかめぐり合えないというだけで、それに翌日になって、あらためて初対面の気分でその満月を見ることなんかできないのだから仕方がない。なぜかそういう星の下に生まれてきたのだ。まあどの星の下だろうが月は見えるのだからそれでもかまわないと思っているが。