Escalator Steps


エスカレータに乗っていて、降りる位置が近づくにつれて、ステップの段差がだんだん狭くなり、上昇角度も小さくなっていき、ほとんど地面と平行に近い状態推移となり、最終的に各ステップの段差値がゼロになると、到着フロアの収納部に格納される準備ができる。ステップに乗っている人は、自分の立つステップが格納される直前かほぼ同時のタイミングで、やや大股気味にその位置を跨いで、到着フロアに乗り移るようにしてエスカレーターを降りる。僕は、その一連のアクションをなるべく小さなものにしたいと思っているので、エスカレーターの降り場が迫るぎりぎりのところまで全く身体を動かさない。場合によっては最後まで、つまり自分の立つステップが完全に失われてしまっても、その場にじっとしたままだ。それで身体のバランスを崩して転倒してしまうことはないように、ゴールが近づきつつある事を意識して、そしていよいよ、自分の立つステップが降り場の収納部に格納される瞬間、僕の靴の裏は、強い摩擦を起こしながら、ステップ面と固定されたフロア面とのバランスが、自分の靴の裏の、前半分と後ろ半分とで、ちょうど半々ずつくらいになったときに、一瞬のタイミングを感じて爪先部分をフロア面に対して軽く過重を乗せてあげるようにして、全身が無理なくフロアの側へと、やや前のめりに、つんのめりながらも、自然な力で移動するようにしたら、それが上手くいってきれいに着地すると、あとはその勢いを利用したままスムーズに歩行へつなげる。あたかも最初から、ずっとこうして歩いていたかのように。こうして僕は無事にエスカレーターを降りて、するとそこは、エントランス・ロビーの広大な空間が広がっている。左手の窓際にはソファーセットが二つ並べてあり、その奥ではコーヒーショップが営業している。進行方向突き当たりのフロア案内図の脇から商業施設用のテナントフロアへ繋がる通路へ抜けられる。通路のすぐ右側にコンビニエンスストアの看板が光っている。すぐ右手にあるのはエレベーターホールの入り口で、これがビルの正面玄関ということになる。僕の勤め先は、このビルの13階にある。