堀切橋


家から歩いて、京成線の堀切菖蒲園駅の前を右折して、堀切橋で綾瀬川、荒川と渡り、千住の柳原から北千住駅前を経由して、中央図書館に至るという、超暇で歩くのが好きな人におすすめのコースを勝手にその場で決めて歩いた。堀切橋が、すばらしかった。高所恐怖感がすさまじい。立ち止まって写真を撮るのは相当な勇気がいる。(僕個人の感想です。)はるか下に川面が細かい波を立てていて、自分の目線よりほんの少し下を京成線の線路が橋と並行してわたっている。目の前にそんな巨大な鉄橋が存在していること自体が、とにかくそれだけで怖い。空が狂ったように青くて快晴で、風は鋭く冷たくて爽快な冬日で、こんな日に落下して死ぬのは、あまりにもおそろしかった。病死もおそろしく、落下もおそろしく、しかしただ無為をむさぼるだけでは良しとしない。ならどうするのか、もういいかげん、覚悟を決めたらどうか、あきらめたらどうか、と思った。橋を揺らさないでくれと、高速で行き過ぎる大型車に怒鳴りたかった。この手すりの向こう側には何もなかった。真空だけがあった。音楽もなく、静謐だけがあった。あのねえ、僕はBGM撲滅委員会の会員だからね、と吐き捨てるように言った。うるさいんだよ、たばこの煙よりよっぽどうっとおしいよ、BGMのない世界で暮らしたいよ、風が真横から吹きつけると耳や鼻の先の痛みが思い出され、熱い息を吐くとさらに染み入るような痛みが内側から上ってくるのだ。長い橋だった。渡りきるのにどれだけ掛ったかしれない。