普通のフェンスの向こうに聳え立っている小菅刑務所の建物を見上げながら歩いていた。カメラ・ビデオによる建物の撮影禁止、の看板が貼られている。一見ふつうの建物だが、どこか不思議な印象の外観だといつも思う。窓がなくて、暗灰色の巨大なボードのようなものが何枚か壁に取り付けられている。ちょっと意味不明な、まるで防弾チョッキのボードが壁に貼ってあるみたいだが、もちろんそういう用途でもあるまい。全体的に、外観はまったく刑務所らしさがないし、この敷地内と外に大きな違いがあるようにも思えない。現に隣り合うようにして職員やその家族が暮らす官舎が何棟も並んでいる。全体的にとても自然だ。にもかかわらず、きっと何かは確実に隠されている。つまり隠している事実を隠している、その技が巧妙なのだ。すごく洗練されているのだ。内部がどうなっているのか、見学してみたいけれども、もし実際に見学したら、おそらく自分の勤務先と似た部分とか、たくさんあるのじゃないだろうか。だとしてもそれはそうだ、似て当然だろうと思う。


勤務先のオフィスの搬入出用エレベーターで地階に降りて管理室を経由して駐車場から外に出るときなど、そのビルの裏側というか骨組みのような構造内に立ち会っている瞬間ではある。あるいはデパートの従業員関係者専用ドアから控え室や廊下や休憩室を抜けて裏口へ抜けていく道とその周辺とかも、その境目にいるときや、奥に入っていく機会があるなら、それもだ。小奇麗なパーテーションやハリボテの裏側の、生々しく継ぎはぎをあてただけの舞台裏に入ったとき。


ところで刑務所にも、そんな舞台裏は存在するのか。もし存在するとしたら、それこそが脆弱性であってリスクになるけど、どうなのか。客とスタッフの区別を必要としている意味では、刑務所とデパートは同じ目的と構成を有しているはずだ。刑務所内のスタッフオンリーの仕組みを見てみたいものだ。


荒川沿いまでたどり着き、雑木がいっぱい植わってるところを歩く。今の季節はわりと木に花が咲いていて、なんという名前の植物かはわからないけれども、白や紫や桃色といった色の柔らかさと、あと花から発する匂いならびに雑草や土ぜんたいから発する青々とした匂いが強烈で、まさに今現在進行形で芽吹いている、活動しているという、ある意味工場のように稼動している植物たちの間をすり抜けて歩いていくのだった。