終わらない

十五歳で、夏休みだった。自室で一睡もしないまま朝を迎えた。ラジオから小泉今日子「夜明けのMEW」が流れてきて、"終わらない夏"と歌っていた。そうなのか、この朝と夜のくりかえしは終わらないのか…。おもてに出て自転車に乗ってまだ明るさと暗さのあわいに沈んでいる裏手の道から中学校手前にある森に向けてペダルを漕ぎ出した。まだ鳥の鳴き声も聴こえず、どこか遠くで新聞配達のバイクのエンジン音がかすかに聴こえる以外あたりは静寂につつまれていたが、やがて気温も上昇して、太陽が輝きだして、蝉も騒がしく鳴きだすはずだった。しかし今はまだ、シャッターが半分だけ開いた店のように、終わらない夏は準備中のようだった。

あれから三十年が経過した。耳元でバリー・ホワイトの「Never Gonna Give You Up」がいつまでもリピート再生され続ける春の日が今朝だった。終わらない春と夏が、かさなって繰り返されていた。音楽が聴こえてくるかぎりにおいては、その季節は終わるということを知らないのだった。

 

Barry White - Never Gonna Give You Up

https://www.youtube.com/watch?v=pF_J1iz_lao

小泉今日子 - 夜明けのMEW

https://www.youtube.com/watch?v=dPsr0QUZ4Gc