早朝の横浜駅の、人気のなさと明るさ。空気のなかの、ふっくらとした粘り気が肌にまとわりつくかのような、ほとんど初夏に近いような体感の反応。誰もいないだだっ広いペデストリアンデッキを歩きながら、こんな朝のキレイな時間を、今自分だけがここに一人で独占しているのがじつに勿体ないというか、誰でもいいから、適当に、若くてバカでいいかげんな男と女が、そのへんを楽しそうに歩いていてほしいと、なぜか唐突にそんな架空の二人を思い浮かべた。世の中がごちゃごちゃ言ってるけどまるで他人事な二人が、昨晩の夜からずっと一緒で、ガラガラのレストランで向かい合って食事して酔っぱらって、店を出てたらたら歩いて、深夜に新高島の近くのホテルに着いてそこに泊まった。朝起きてすぐチェックアウトして、だらだら駅まで歩いた。夏っぽくて空気が肌にさらさらしてた。駅前までほとんど無人だった。リーマンのおっさんが一人とぼとぼ歩いてるだけだった。

上野駅に着いて、公園口が移動したことは前から知っていたけど、久しく降りてなかったので、ちょっと改札を抜けてみた。駅を出てけっこう驚いた。一分も歩けば、すぐ西洋美術館だ。要するに以前の入り口から右に百メートルくらい横スライドした感じなのだが、それでも出てすぐのこの景観は、けっこう衝撃だ。ほんとうにこうして何もかもが、少しずつ過去の記憶から更新されていって、元のバージョンなんてまるでおっぼえていられなくなる。というよりも今この光景が、あたかも何十年も昔からずっとそうだったかのように見えてしまう、そのことの方がすごい。朝の明るい光を浴びつつしばし茫然とする。

七時半頃、最寄り駅に到着する。歩きながら、夏の朝は良いものだと思う。今がたぶん最強の季節に間違いない。中学生のときからそう思っていた。初夏の朝、夜明け前の青さも良いけど、すでに日の出してしばらくした後の、いよいよこれから暑くなる直前の色と温度、それが好きだ。