巧みさ

志賀直哉「城の崎にて」も、尾崎一雄「虫のいろいろ」も、つまりものすごく整理が上手いのだと思った。論述のかたちの整い方が、すぐれているのだと思う。「虫のいろいろ」はすばらしい短編で、軽妙でユーモアを感じさせるが、中心にあるのは鮮やかで確かな手つき、その巧みさのようなものに思われる。いくつかのテーマを、ほどよく切り取り、きれいに並べて、比較させ、それによってある種の味わいを引き立たせて、その後、洒落た体で、すっと消える、その一連の流れ。ものを考えるというのは、ものについて考えていると同時に、考えているそのもの自体について考えることで、さらにそのやり方、考え方自体、考える方法の試行錯誤でもある。小説に何かの考えが描かれているならば、それは考える方法の表出でもある。考え方が上手くても考えの奥の答えが探し出せるとは限らないし、考え方が不器用で下手でもそれなりに答えに近づき、考えの奥へ進んでいくことは出来るかもしれない。そこで、何が考えられているのか?は考えている人自身の問題であり、それと同様の考えに囚われることもあるだろうが、それも考えている人の考え方に惹かれてそうなる、ということも多い。考え方の巧みさ上手さそれ自体も、人を瞠目させ、感動させる力をもっている。むしろそっちの方に惹きつけられる方が多いのかもしれない。