揉め事

電車の中で、おじさん二人が、足を踏んだ踏まないで、盛大に言い合いしていた。あやまれよ、なんでだよ、あやまらねえよ、と、水掛け論がとめどもなく続いている。犬も食わないような、ああした口喧嘩は、どれだけ年齢を重ねた立派な大人であっても、一度はじまったら、あとは子供のケンカとまるで変わらない。売り言葉に買い言葉にすらなってない。お互いに感情オーバーフローでテンパったまま、幼稚な単語のぶつけ合い、交互に出す手札の一枚一枚にほとんど戦略も意味もなくて、お互いが自分の恰好をなんとかたもつのに精いっぱいで、そのがんばりのしんどさが周囲に伝染して、下手くそな子供同士の不格好でサマになってない取っ組み合いを静観するしかない車内が、なんともむず痒いような居心地の悪さにつつまれるし、万が一キレて変な行動起こされる可能性への緊張感もあり、なんだこれは、めんどくさいなーという雰囲気が充満する。お前どこの奴だ、どこで降りるんだよ、どこそこだよ、みたいなやり取りが交わされ、それが意外と近場だったので、ならあと二駅だからそこまでの辛抱だなと、その言葉の聞こえた車内全体が、すこしだけ気を取り直す。