パープルレイン

プリンスのパープルレインは、大仰で、くどくて、暑苦しい曲の筆頭ではないかと思うが、自分は好きだ。ほとんど歌舞伎みたいな、幕の内弁当みたいな、すべての要素がぜんぶ入ってる定食みたいな曲だけど、この曲を聴くのは苦じゃない。壮大なバラードと言うには、かなり煤けてるし、古ぼけて歪んでるし、メランコリックで、シアトリカルで、厭世的で、真っ直ぐなところのない、妙なバランスの、やや実験的な感じすら漂う曲だと思う。怪しい不良っぽさにおいて大変な完成度の高さだと思う。大人に隠れてこっそりと匂いを嗅ぐ類の嗜好品の香りが濃厚にする。プリンスの80年代のレコードは、とくにパープルレインとサイン・オブ・ザ・タイムスはどちらも音が悪いと思うのだが、表題曲パープルレインについてだけは、その音の悪さがかえって曲の魅力を高めているかのようでもある。