季節物

例年通り、突然あたり一帯すべて金木犀の香りに満ち満ちていたのが、今年は直後に、何度かに分けてはげしく降った雨のおかげでなすすべなく一網打尽にされてしまったようで、今やオレンジ色の粉末が道端にかすかに落ちているだけだ。

彼岸花も、あるとき忽然と咲いて、ある一角だけを妖しい赤色に染めて、しばらくすると無残に朽ちかけているのが例年のことだが、今年はなぜか、ことのほか短命だったような印象がある、あっという間に消えてしまった感がある。

彼岸花金木犀も、やや主張が強すぎるというか、存在感としておさまるべき箇所から少しだけはみ出しているように思えて、自分はどちらの植物もあまり好まないのだが、いつの間にか消えてしまったことに気づくのは、それはそれで肩透かしの思いもある。

シェリー・ビネガーを使ったレシピが幾つも載ってる料理本を買ったおかげで、最近の我が家の食卓に新しいメニューが増えた。酢とかバルサミコ酢とかとはまた違った、爽やかで香りよくて優しい味わい、野菜や魚介類をうっすらとコーティングするような感じで、それぞれの素材の味わいを引き立たせながらも程よく中和し、どのような食中酒にもマッチさせるような素晴らしい働きをみせる。

それと共に、クレソン、ルッコラなどの野菜の苦みを、何よりも美味しく感じる。あるいは玉ねぎの辛さ、春菊や芹のほろ苦さ、仕上げに加わるディルの香り、それらと共に食事を進めるのが、何よりも好きだ。塩味やたんぱく質、脂肪分との組み合わせにおいて、それら野菜のはたらきが、何よりも重要だ。

ただし、パクチーだけはダメだ。パクチーは今や、家庭内で使用されるハーブ野菜として盤石の地位を固めた感がある。昨今どんなスーパーにおいても、パクチーが手に入らない状況はほぼありえないだろう。しかし自分は、手を出さないのです。手を出したくても出せないのだ。

また、今年も秋刀魚は不漁らしく、売り場を見てもまるでこの時季らしさが感じられない。ほんの申し訳程度に売ってる生の秋刀魚は気の毒なほど痩せて細長く見えるし、そのくせ、は?…とおどろくほど高価格だ。もしかして来年以降もずっとこのままで、じつは秋刀魚を気軽に食すことのかなわぬ時代が、すでに到来してしまったのではなかろうか。

そういえば先日、はじめて築地の場外市場に行った。もう遅い時間だったのでほとんどの店が閉まっていたけど、ああいった鮮魚売り場を見るのは楽しい。禁酒法さえ解禁すれば、店頭で販売してるあの生牡蠣を、大量に買ってその場で立ち食いしてやりたいのだが。

築地本願寺にも、はじめて訪れてみた。お堂の中を見渡しながらぐるっと一巡した。インド建築様式の外観もさることながら、本堂の後方に巨大なパイプオルガンが設置されていて、その下にはインターネット中継用の機材が積まれたブースが設置されていて、ちょっと浄土真宗の寺であるとは思えない感じだったが、ただよう御線香の香りがここが寺だということをかろうじて思い起こさせてくれていた。