L.A.ウーマン

ドアーズの「L.A.ウーマン」を、ものすごく久しぶりに、最初から最後までまともに聴く。なぜなら[50th ANNIVERSARY DELUXE EDITION]なるものが出たから。

「L.A.ウーマン」。まともに聴くのは、高校生のとき以来ではないか。

各楽器の演奏とボーカルで編成された楽曲、つまりロックバンドであるということ、そのかたちそのものが伝わってくる。

曲を作って、パートごとに役割を決めて、せーので演奏して、ボーカルを録って、トラックダウンした。そういうもの、すなわちそれがロックバンドなのだということ、音楽の形式としては、ブルースでもジャズでもありうるだろうけど、でもあなたたちのやってることは、まごうことなくロックなのだということ、つまりはそういうことなのだと、それが「L.A.ウーマン」である。

ほんとうに、身も蓋もない、演奏して、歌って、録音して、それだけ、そういうもの、その寒々しさ、だからこその、解放感と自由、あてのない、寄る辺ない、単に放り出されてるだけの、ブルースでもジャズでもない、なんでもない、ただの騒々しい何か。かつてドアーズだった、今もそうだけど、今と昔は違う、でも違うと思わない人もいる、違うとか違わないについてどうのこうの言う人もいる。そういうのいっさいを、それはともかく、次のアルバムとして、L.A.ウーマンは出た。

L.A.ウーマンはドアーズにとってどんなレコードか、それはうまく言えないが、湧きたち泡立ち消えていく言葉よりも、出たアルバムの方が強いことはたしかだ。

このアルバムがリリースされたのは1971年4月で、6月には僕がこの世に生まれ、7月にジム・モリソンが死ぬ。と、書くと、僕が何やら意味ありげな風を言いたげだが、そんな意図はない。たまたまそうであったと。しかし71年て、こういうことだったのだなあと、何やらよくわからない何かを、勝手に感じたくはなる。71年リリースと聞いて納得、道理で生まれたばかりのあの頃に、よく耳にしたわけだ…などと言ってもつまらない。僕がL.A.ウーマンをはじめて聴いたのは、たぶん1987年だと思う。ドアーズのアルバムラインナップが、CDで少しプライスダウンしたばかりの頃だ。

ドアーズは、高校生のときにずいぶん聴いた。まず、ファーストアルバムが圧倒的に素晴らしく感じられて、ドアーズとはこれに尽きるだろうと、"ハートに火をつけて"はあまりにも陶酔的で、これこそが最良に結晶化したサイケデリックということなのではないのか、この内省性と速度にこそすべてがあるのではと、誰もがそう思うのではないかと、ひとりで興奮した。

そこからセカンドアルバム以降へ聴き進むことができるかどうか、ファーストアルバムとは違うバンドとしてドアーズをとらえ直せるか、そこは意外に、ちょっと高いハードルに感じていた。とはいえ「まぼろしの世界」も、あれはあれで、ずいぶん聴いた。

まぼろしの世界」「太陽を待ちながら」「ソフト・パレード」…と聴き進むにつれて、前述した「このバンドはロック・バンド」という認識を、もたざるをえなくなる。それはまるで、連続したある作品に対して「これは、会社事業である」と認識するようなものだ。彼らもまた人間なのだ、長い目で見なければダメなのだと悟ることに近い。

自分は高校生当時、60年代から70年代前半くらいまでの音楽しか聴かないというか、はからずもそのような状態に自分を狭めて音楽を聴き漁っていたので、当時聴いていた往年のロック・ミュージックは、自分にとってはすべて"新譜"であった。どれほど古かろうが新譜である。もちろん歴史とか文脈は確認し理解しているつもりだが、その理解のあやふやさ、定着の不安定さも含めての"新譜"なのだった。

そんな当時の自分にとって、ドアーズほど「今までとこれからとは違うぞ」ということを感じさせてくれた音楽はないかもしれない。セカンドアルバムですでにそうだったし、それ以降ますますそうだと思った。

ジム・モリソン…この、押しの強い、暑苦しい、同じ空気を吸うのも躊躇したくなるような感じ。この野太い声の、酔っぱらった叫び声にみたいなのを聴いてると、ほとほと気が滅入るのだった。おそろしく無批判にブルース回帰していく感じに、強い抵抗をおぼえた。こんなものをなぜ聴かねばならないのかとさえ思うほどだった。だったら聴かなきゃいいのだが、なぜかそういうのを、かえってむきになって繰り返し聴いてしまうのが、高校生という存在の不思議なところだ。

もう十年以上前にそう思ったという話だが、ムーディーマンが一晩かけてDJするとき、ライダーズ・オン・ザ・ストームをかけているのは知っていた。ネットの音源でも聴いたし、リキッドルームでも実際に聴いた気がする。ああそうだよなあ、やっぱりこれはいいんだよなあ、、と思った。そのときはものすごく久しぶりに「L.A.ウーマン」のことを思い出したのだった。

レコードなら、A面の最後に位置する8分弱。「L.A.ウーマン」は素晴らしい。いよいよ、70年代がはじまった。