坂本慎太郎のニューアルバム「物語のように (Like A Fable)」がとても良くて、くりかえし聴いている。最近の新しい音楽で、くりかえし聴きたくなるものに出会う機会がかなり少なくなってしまったのだが、「物語のように」には一曲目"違法です"から惹かれた。最初はリカルドヴィラロボスのFizheuer Zieheuerっぽい!と思って、しかしリズムボックス以外は生音なのだが、これに限らずどの曲も楽曲(バックトラック)が、湿度と粘りと緊張感に満ちた、弛緩…という感じで、すごく良いのだが、それよりも、日本のロック・ミュージックとしての、詩と曲の組み合わさり方において突出した成果を聴かせてもらっている感じだ。言葉が音にハマっているというのは、なんてすばらしいことなんだろうかと思う。歌詞とは、こんな風に伝わるべき対象(意味)からするすると逃れて、いつまでたっても捉えられないようなものだったかと思う。言葉と音楽が混ざり合って、一度や二度ではとらえきれない複雑さや曖昧さをもって、とても味わい深くて、解決を求めないまま何度でもくりかえし体験したくなる。そういう充実した内容が、約四十分のアルバムという単位にまとまっている。
これまで、あまり坂本慎太郎をじっくり聴いてこなかったことを後悔している。本作を聴いてから、前作「できれば愛を(Love If Possible)」も聴いたのだが、これもまた、素晴らしいのだ。今は自分の脳内が、もはやすっかり坂本慎太郎に満ちている。こういう感じを、久しく忘れていたなとも思う。かつては、こういうのをダラダラとけじめなく無制限に聴き続けているのが普通だったはずなのになと思う。