ふろしき

スーパーで食材を買うとき、会計後に持参の袋に入れるのは良いのだけど、たとえばお寿司の入った詰め合わせパックとか、魚介のいろんな部位が切り身になっておさまっているやつとか、ちょっと大き目な容器のなかに小分けにされて入ってるようものを買うと、せっかくきれいに並んでる内容を崩さないように水平を保ったまま袋に入れて持ち運びたいのだが、それが難しく、しかたなく縦にして袋にしまうしかなくて、それで家に着いたら内容物が入れ物の端にぜんぶかたよって、見た目が相当残念な感じになってしまった、そんなことが、たまにある。あれはなんとなく、いい気分ではない。最近流行ってる食品の宅配業者ではないけど、僕もできればきちんと、飾り付けられた状態のまま、置かれて売られていた状態のままで、自宅までなるべくそれを崩さずに持ち帰りたいのである。しかし持ち歩いてる携帯用買い物袋の収容能力には限界がある。そこで考えた。だったら、ひとつ、ふろしきを携帯していれば良いのではないか。ふろしき一枚を、必要なときにさっと取り出して、運ぶものを包んでささっと結んで、それを事も無げにぶらさげて持ち帰ったら、これは実にスマートで合理的でいろいろと気分の良いものではないかと思いついて、そしたら俄然ふろしきがほしくなってきた。そこで妻に、ねえ、うちにふろしきないかい、と聞くと、あるかもしれないけど、あったとしても、あの紫色の、いかにもふろしきみたいな色のやつしかないかもしれないと言う。少し考えて、それでもいいんじゃないか、むしろそれこそ、由緒正しきふろしきだろう、そういうのを、日常使いでささっと使うのこそいいんじゃないかと思って、それ、それでいいよ、それあるかい、と聞くと、妻はすこしのあいだ、あちこちを探してのち、あると思ってたけど、やっぱりないみたいと言う。そう、それならいいよいいよ、だったら今度、ふろしきを買いに行こうじゃないか、でもふろしきなんて、どこに売ってるんだろうね、皿や食器の店かそれとも衣類のほうかね、まあ、どっちでもいいよ、行ってさがせば、どっちかにはあるだろう、と言って、きっとこんど見に行こう、大きさはどのくらいがいいのかだろうか、でもあれは、じっさいそれほど簡単なものじゃないんだろうね、上手く使いこなすには、それなりに熟練がいるのだろうね、などと言って、今日はひとまず、そんな会話を交わしただけで終わる。明日になったら、すっかり忘れているかもしれないが、忘れてなければ、買うかもしれない。でも冷静に考えて、ふろしきなんて、そんなに使うものだろうかとも思う。