橋の上から川面を見下ろしていたら、真下から一艘の船があらわれて左右に波紋を広げながら遠ざかっていった。それまでののっぺりとした川面に、船から生じた波動が両岸に向かってくまなくすみずみにまで行きわたっていくのを、じっと見つめていた。

船っていいなあと、あらゆる乗り物の中でも、船こそは一番の原基に位置するものだな…と思う。水の上にそれを浮かべて、推進力をあたえて進む。おろかな人間が、いまいるこの場所だけではあきたらず、無謀にも水の上にまで足場を広げた。自らの可能性を拡張し得たと信じた。

しかしいまだに、こうして船を見ているだけで、それがあまりにも危うくて頼りなく寄る辺ない確信に基づいたものでしかないことが、ふと垣間見える現実のように思い起こされる。水は容赦がない、あっという間に浸水し、呑みこまれる、危なっかしくて見てられない気がする。

船の模型もしくはラジコンを水に浮かべたい気がしてくる。それで荒川の河川敷で遊びたい。荒川の川っぺりから、手の届かないところまで前進させてしまいたい。肉眼で見えなくなる寸前の、もしかしたらもう二度と手元に戻ってこられないほど遠くまで全速前進させたい。もしくは、橋の上から操縦したい。