つゆ

僕は市販の蕎麦つゆが好きではなくて、なにしろ市販のつゆはどれも甘すぎるのだけど、これなら美味しいと思える蕎麦つゆを、もし自分で一から作るなら、それはそれなりに手間をかけないわけには行かないはず。

蕎麦の味をどうのこうの言うほどの知見もないけど、蕎麦つゆの味はお店と家庭では、雲泥の差というか別物だと思う。あれを家でつくるなんてちょっと想像を越える。

蕎麦とくらべてそうめんなら、もっと家庭的で、家でちゃちゃっと簡単に、とくに今の季節なら、ほとんどそうめんばかり食べてるようなありさまだが、僕はそうめんつゆは、市販の鰹出汁と醤油と水で自分の好みの味に調整して、なるべく控えめな味わいにしたい。できるだけ薄くて軽い、つつましい旨味と塩分の調和。

とてもあっさりしているのに、あののど越しや歯ごたえに生姜と葱の爽やかさが混ざり合ったとき、それら全体をやわらかく覆うように、鼻腔口腔内をかすかな鰹の風味が追いかけてくるような。

ドライ・マティーニにおける、ジンとドライ・ベルモットとの関係。イギリス宰相のチャーチルは、卓上にベルモットのボトルを置いてそのラベルを眺めながら、ベルモットをまったく含まない「ドライ・マティーニ」を嗜んだそうな。

素麺つゆにおける、旨味と水の関係。いつかチャーチルのように、机上にごろんと置いた鰹節をながめながら、水に浸した素麺を食ってみようか。

いやその前に一度くらい自分できちんと「だしを引く」くらいやってから言えと。