まだ暗くなりきらない空と窓の光が、このあと訪れるはずの調和を待っている間に、屋上のビアガーデンはもう開いた。写真に騙されるけど、ほんとうは寂れていて、うら寂しい場所なのだ。テラス席っていうのが、大抵そうなのだ。何か物悲しい気持ちにさせる。埃とダクトからの排気の匂いが、あたりに立ち込めていて、ベンチはベタついていて、床は濡れていて、おおむねちっとも良くない。ふと見下ろして、通り過ぎた女性の足元、赤い爪の素足にサンダル履きのカツカツ音。ああ、これは夏ねとなる。