とつぜん妻が、短い叫び声を上げた。、眼を見張ってこちらを見ている。たった今買ってきたものを手に取ってしげしげと眺め、冷蔵庫を開け、なかを熱心に確認しはじめた。

そして「いま、すごいデジャヴがきた」と言うのだ。…そんな、思わず驚きの声をあげるほどのデジャヴってあるのか。

買ったものとか、場所とか、相手とか、そういう単一対象のことではなくて、それらを含んだ、このひとまとまりの持続的な流れそのものが、かつて一度体験済み、というのがデジャヴだ。

デジャヴは、それがその人の頭の中だけに起こった勘違い、というわけでもなくて、本当にかつての出来事が再起している、それを知覚した人がいる。

すべてはかつての出来事で、誰彼の領域を越えて、体験し知覚されるなにもかもを、もれなくなつかしく思うべきかもしれない。

部屋のカレンダーは、あらかじめ20年近くの日付が剝ぎ取られていたのだ。今日これから、二人がはじめて出会い、新たな生活がはじまった、その可能性もある。