ディア・ハンター


ディア・ハンター [DVD]


久々に観た。たぶん3度目くらいの鑑賞だ。DVDになってからは初めてみた。


今回見て思ったのは、前見たときの所謂「感動的な話」という記憶があったのに、今回の印象はそうでも無かったということ。でもやっぱりなかなか見ごたえのある映画だと思った。


ロバートデニーロは仲間内でけっこう「周りが見えてるクールなやつ」的位置付けで、まるでドラマでキムタクが演じそうな感じがある。なんかカッコつけててやな感じ。グリーンベレーに突っかかったり、裸になったり結構混乱しているようにも見えるが、そういう振る舞い自体なんかヤな感じ。


戦場に来てからも、民間人らしき親子を殺そうとするベトコンをやっつけて助けるなど、道徳的な素敵なヤツっぽくて、こんなヤツだったっけ?と観ててやや白ける。


で、例のロシアンルーレットだが、ここでは残酷さや恐怖に真正面から立ち向かうデニーロが神々しくワイルドに活躍する。なんというか、このロシアンルーレットシーンは、確かに悲惨なのだが、結局のところ、賭場を仕切っているベトコンのあいつとデニーロとの間で、目線の火花をバチバチいわせまくっていて、ほとんど根性比べのタイマン勝負の感じ。「3発でやるぜ」と提案したときのデニーロの挑戦的な目つきと、仕切り役の「え?まじ?そこまでやるのか?こいつ根性あるぜ!でも俺も、なめられないようにしなきゃ!」的おびえた視線の交差とか、まさに「男の勝負」世界で、ちょっとこのあたり実は世間の感想では「戦争の残虐性・悲惨さ」とかと、問題がすり替わってる感じがする。っていうかあのベトコン、顔かっこ良過ぎ。スティーブンが頭にかすりながらも、引き金を引く事をやり遂げたときの、周りからわいわい言われる感じとかデニーロが感動して涙するとか、とにかく演出が冴えまくっていてすごい。


で、根性あるところを充分に見せて、嘘みたいな脱出に成功してからも、へろへろの友達を助けるためにわざわざ自分も川に飛び込むし、人通りの多い通りに辿りつくまでおんぶしてあげるし、とにかく最強の男デニーロの活躍が続く。


でも、このあたりでデニーロもウォーケンも、もはやロシアンルーレットのたまらない恍惚感に骨の髄までやられまくってると考えていいと思う。それ無しでは生きていけない体になってると。まあその事自体は、確かに「悲惨」なのかもしれないけど、サイゴンで拳銃の音聞いて、はっとなって引き寄せられるように賭場に向かってしまうウォーケンにやはり、なぜか同じ賭場で見物してたデニーロが気づくシーンはちょっと笑う。まるで一人でキャバクラ行ったら、やはり一人で来ていた(しかも同じ娘を指名狙い)の同僚がいるのに気づいちゃった!みたいな(笑) うわやばい!みたいな。。まあそんなシーンじゃないけど。(っていうか俺そんなキャバ経験ないけど!)なんかそういう面白さがある。


この映画で鹿撃ちのシーンは2回出て来て、どちらもある種、神秘的というか崇高な行為を感じさせるような演出がされていて、前半のシーンでは、労働して、仲間と楽しく語らい、神聖な鹿撃ちをする。っていう、ある意味生活のバランスが完全に取れた、これまでのデニーロの社会生活の完全さ(恋愛を除いて)を感じさせるのだけど、従軍して、怪我もなく復員できた事で、なんだか場違いな、嬉しくも無いような「誉れ」を頂いてしまって、前は自信をもって、(殺される鹿への全幅の信頼をもって(その信頼の意味が僕にはなんか良く判らないけど…)) 撃てた鹿を撃てない。鹿を照準に納めた上で、あえて狙いを外し、撃たないことで「これでいいんだな?」と鹿に確認したくなっちゃう。。これはやっぱり、もはや鹿では恍惚が足りなくて「ほんとは自分のこめかみに銃口を当てたいよ!ああ鹿よ俺はこんな変態になってしまったがこれで良いんだな?」と、デニーロは確認したいのかもしれぬ(笑)。


復員後のデニーロの軍支給の服装がカッコいいと言う事も重要で、周りの労働者集団が醸し出してる服装の野暮ったさと較べて余計に際立つ。とにかく「公に奉公」したら、故郷ではかっこいい人になれる。というのは基本なようで、デニーロも故郷でなぜかあの上等な仕立ての外套を脱がない。どんな時と場所でも着てる。ああいうのは脱いじゃいけないものなんですか?メリルストリープはたぶんあの姿を見て、「うーんカッコいい。ウォーケンじゃなくてこの人でも良い気がしてきた!」って絶対に思った。と思う。


で、だらしないともだちを叱り飛ばしたりして、こんなヤツ別に死んでもいいかも、的な感じでびびらせるために一回そいつのこめかみに拳銃あてて(このとき絶対デニーロ性的興奮中)たまたま上手い事「ちょっと激しい説教」みたいに丸く収まって、あーあこんな日常退屈だ。もメリルストリープとデキちゃったので差し当たりの生活における目標も無くなっちゃったしな。まあ、ちやほやされるのは悪くないけどな。的に、このまま有りがちな「地方名士」になる前に一度、やっぱりキャバクラ…もといサイゴンへ向かって、金ちらつかせて大枚掴ませてついにウォーケンと共に「歓喜と恍惚の大勝負」に挑む権利をゲットする。良くも悪くも己の信じた「道」<欲望>に忠実なデニーロなのだった。


で、賭場で「有名なアメリカ人」になったウォーケンの赤ハチマキも、なかなかカッコいいのだから始末が悪い。男たるもの、だらだら幸福をむさぼるより、赤ハチマキで散華すべしか。。最後正気を取り戻しているのか取り戻していないのか不明な(でもおそらく取り戻していないであろう)ウォーケンの表情はすばらしい。「一発か?」と聴いて、最高の笑顔を見せ、頭を打ち抜き「うおーたまらん最高」と言いたげな顔をして絶命するウォーケン。。泣きながらウォーケンを抱きしめ、その頭部から吹き出る、おそらくとても暖かい血液を腕や手に浴び続けているデニーロ。・・・このあたりはやっぱりすばらしい。コトバが追いつけないすばらしさだ。