娘・妻・母


娘・妻・母 [DVD]


まあ、さすがにお話がこういう題材だと相当不愉快になるというか気が滅入ってしまうので、最高もう一回観たい!とは思わなかったが、それでも確かな確信に満ちたリズム感覚で映画が進んでいく事の贅沢な快感は相変わらず強い。


この映画では原節子をたっぷりと観れるというのが最大の魅力だと思う。わりとリラックスしていて、出戻りの未亡人だし年ももう若くないし、結婚とかの事もなんとなく判ってしまったし、これ以上失うものの心配も特になさそうで比較的サバサバしている感じがとても良い。仲代達也との関わりも原節子本人がどう思ってるんだか、ぼやっとした作り笑いの裏に隠れていてあんまり見えないのが却って良い。あのキスシーンが、何か感情とか意志とか、そういうのがほとんど無いような、自ら進んでじゃないけど抵抗するのでもなく…という不思議な感じで、これは原節子独自の雰囲気で為されたシーンだと思った。っていうか、あれじゃあ男の方からしたら、あんな感じでキスに成功しても「してやったり!」とは思い辛いという、原節子というのは、そういう相手であろう。…いや知りませんけど。適当に思いつきで書いてますが。。


あと高峰秀子も、やはり良い。じめついた所がなく、希望も不満もなさそうで、とても安定していて落ち着いてる。原節子が戻ってきたので「小姑が増えて厄介ね」なんて云われても「へー?世間ではそんなもんかしら?私は特に問題ないわ」なんて考えていそうですらある。でも決して浮かれた感じではなく、むしろ地味に沈みがちな感じで、でもやる事をやってあとは隅のほうにひっそりと座っている感じ。あとは、やはり会話するときの感じが(声とか台詞自体とか間とか)、本当に好ましい。やはり、いつまでも観ていたいと感じさせる。


なので終盤、お母さんの引き取りを巡ってこの二人が接近するときが、映画内でもっともスリリングな瞬間であり、ほかの兄弟たちの身勝手過ぎて逆にバカらしくさえなるような感じから、この二人だけが別のレベルに浮き上がろうとする。ともすれば、(善意から発してるだけに)本当にタチの悪い闘争が始まるのではないか?という微かな不穏さが、薄っすらと匂う。


…まあそれはそれで。。でも、まあ全編、いくらなんでもカネの話が多すぎる。どうせならもっと汚くエロウになってしまえば良いのに、とすら思う。それは言いすぎだが。皆でハイキングに行ったときに、留守番してる草笛光子が足を崩して体を斜めにして畳に座っていたが、あの辺の色気が一瞬だけど良かった。まあ総じて、その程度で満足すべきだろう。でも、皆ひたすらカネ・カネ・カネで、観てると憂鬱な気分になって来てなんか死にたくなってくるぞ(笑)