床に寝かせてある巨大な画面を、何人かで協力してその片側に手を入れて、皆で一斉に力を入れて、ぐいっと画面を片側から持ち上げていくと、それまで上を向いていた画面の内容が、そこではじめて立ち上がってきて、それと同時に、細かなゴミとか、かけらとか、剥離して乾燥した絵の具のかたまりとかの、画面のあちこちに乗っかっていて今まで気づかれもしなかったようなものたちが、地面と水平に安定していたはずの画面が立ち上がり始めたことで、ずるずるとゆっくりすべり始め、重力に負けてなすすべなくぼろぼろとなだれ落ちて落下していく。しかし大半の要素は見込み通り、画面にしっかりと食らいついてるみたいで、なんとかその場に貼り付いたまま、水平面がゆっくりと垂直面へ変わろうとしていく過程をじっと耐えている。
やがて、重力に対して完全な垂直の向きにまで至り、そこで静止して、画面の内容が突っ立つ。ごうごう流れ去る川の流れに橋をかけて、それを渡りながら流れを見る。というとき、川の流れとは重力の事で、橋がかかるとは、画面の内容が、突っ立つ事である。その橋はおそらく、あっという間に川の流れに呑み込まれてしまい流れ去ってしまうかのような、きわめて脆弱な印象でかろうじて成立している。
画面にわずかながら、剥がれ落ちそうになってゆらゆら揺らぎながら、かろうじてぶら下がっているだけの要素が点在していて、それはもはや、画面に属するものではなくて、重力に属するもので、だからそういうものはその醜くさゆえに全部払い落とす。一部まだ乾いていなかった絵の具が、下方向に幾筋も垂れている状態も、それではまるで、地面に戻りたい欲望が剥き出しにも思えて、それもみっともないので全部ふき取ってしまうか、上に別の紙を貼り付けてしまった方が良い。そういう作業をして、ようやく垂直になった画面にしっかりと食いついているものたちだけが(ほとんど何も残っていないようにさえ見えるけど)、ひとまず一覧の元にさらされている状態になった。