Sessions


冬を思わせる強い風の中を歩く。絵の具の水色みたいな空を背景に桜の枝と赤茶けた葉が貼りついたようにある。空と枝葉の、どちらが前でどちらが後かがほとんど判らなくなるほど、それぞれの色が強い。空の青が、ほとんどはみ出してしまっている。秋に紅葉する木々の中で僕は桜が一番好きだ。緑だったり茶色だったり、色の変わり方がまばらで部分部分違っていて、全体的には薄汚いくらいの感じになるけど、でもそこがうつくしい。桜の葉の赤みほど好ましいものはない。


時間も空間も隔てたふたりの人間の二つの行為には、ほんとうに何の関係も持ち得ないのか?ということについて書かれた小説が「残響」である、という誰かの言葉を思い出していた。そして、「残響」のあるシーンの事を思い出していた。あれはまるで、異なる曲から、また別の異なる曲へと祈りのような強い思いを込めて、一気にカットインされたかのようなシーンだった。あれが、それについて書かれている、という事になるのかどうか、それはわからないが、まず何よりも、あれを読むというのは音楽を聴くという事に近いのだとしか思えない。