晴天の日の夕暮れから夜へ


連日いい天気で気持ちがいい。というか、猛烈に眠い。いつまでも眠りたい。体の表面にまとわりつく空気の質感や風の感触が、何か生暖かい継ぎ目のまったく無い肌理の細かいなめらかな毛布のようになって自分を包むので、そのままそれに身を任せて眠ってしまいたい。それで、なすすべもなくこころゆくまで寝てしまってから、夕方に起きて、やや後悔と自己嫌悪をおぼえ、ぼんやりした頭のまま適当な服を着て、まだ全身に血液が行き渡っていないふらふらの状態のまま、なんとなく外に出て、夕暮れの空を見ながらその日はじめて外の空気に触れて、そのまま空いた電車に乗って、がらんとした社内で向かいに腰掛けてる人の様子を見るとも無く見たり、窓の外の景色を見たりしながら、そのまま何駅か先にあるレコード屋とかに行きたい。そこで中古新入荷の幾つかの棚を見て、とくに何の戦果も得られず手ぶらで店を出ると、もうすっかりあたりは暗くなっていて、仕方がないのでそのまま本屋とかをうろうろしながら、駅まで戻って、何となくつまらない思いで、行きとは逆の電車にのって家の最寄り駅まで付き、ホームの時計を見上げて出かけてから2時間くらい経過しているのを確認しつつ、地元の寂しい商店街を抜け、まばらな住宅街も通り抜けて、そのままとぼとぼ歩き、鬱蒼とした雑木林の木立も通り抜けると、やがて国道沿いの、田んぼと畑が遥か彼方まで広がっているところまで来るので、その田畑の広がりの真ん中を貫くように、細いあぜ道がまっすぐどこまでも続いていて、僕が、まるで、飛行機が、空から細い滑走路に、着陸するかのように…そのあぜ道に向かって自分が歩いていき、やがてあぜ道の上に一歩を踏み入れ、…そのまま引き続き、変わらない速度でとぼとぼと歩いていくのだが、周囲はこの空間全体に何万匹もいるであろうカエル達が鳴く声の中低域を振動させるような大音響がまるで室内プールに居るかのようにわーんという反響の無限連鎖で響き渡っており、ときどき虫の声の柔らかい金属質な音が鈴の付いた棒を揺らすかのように散りばめられるが、意識にのぼる音は視線を移せばそれに応じて変わり、遠くに目をやれば前方に続くあぜ道の、さらにその先のむこうには、遠い山の黒い輪郭がまだその周囲の空の微かな赤い色にくっきりと浮かび上がっていて、それに伴い、数百メートルほどはなれた国道を走る大型トラックや自動車の騒音が、まるで遅れてやって来る記憶のように微かな残響音として耳に届く。それを聴きながら、遠くのファミレスやパチンコ屋のネオンが、先ほど点いたばかりで、未だ真の黒にはならず濃紺の度合いを残すの空の背景に食い込むかのように、熱をたくわえ輝き始めるのを見ながら、誰も居らずやはり虫の声と蛙の鳴き声だけに包まれた道を歩きたい。