ダンケルク

クリストファー・ノーランダンケルク」(Amazonプライム・ビデオ)、とても不思議な感触の戦争映画だった。作り手の作家性というか一貫性を感じもするが、何よりもIMAXの映像体験の醍醐味を最大限引き出すための作品として仕上げられているのだろう。

たとえば晴れた日に飛行機に乗って窓の外を見たときの、おそろしいほど透き通った空気を通して空の青と雲の白が透明な太陽の光の輝きをめいっぱい反射させているような現実感のない天国的な景色が、本作での戦闘機が飛んでいる空のシーンそのもので、無限の広がりの中を冷たい鉄の機体が飛んでいる様子は、ほとんど夢の中で見ている景色のようだ。地上の、救出を待つ兵士の泡立った波が打ち寄せている浜辺も、まるでこの世の場所とは思えないような、砂漠の如く広大で視界を遮るものが何もなくて、この世界の最終地点みたいな感じがする。ヨーロッパの浜辺って、みんなあれほど広いのかと思う。何時間か毎に強烈な引き潮になって、海水がはるか後方に退いてしまうと、桟橋も浅瀬の船も橋げたや船底をあらわにして砂浜に取り残される。潮の引いた広大な浜を兵士が歩いていく様子など、ほとんど彼岸の出来事っぽくも見えるが、それをそのような印象に撮影したいわけではおそらくない。

空の彼方から敵機がやってきて、危険が近付いてくる。生きるか死ぬか、しかし緊迫感が、あるのかないのかよくわからない、数万人だか数十万人だかの兵隊が脱出するという話だが、その人数による混沌、阿鼻叫喚な修羅場的なものを強く感じさせはしなくて、たしかにたくさんの兵隊が出てくるけれども人間より自然の景色の方がずっと広大で夢のように静かで、景色というよりも映像がうつくしい。また音楽もかなり特徴的というか、弦楽系の音が延々と引き延ばされてビートレスのアンビエント風にいつまでも鳴り響いている感じで、音楽というよりも風の音とか高い空を飛ぶ飛行機の音とかの終わりなき持続音のようだ(IMAXで聴いたら凄いのかもしれない)。

陸、空、海の出来事が並列的に語られていく。切替わりのテンポは早めだが忙しないわけでもなく、やがて異なる場の出来事がじょじょに一箇所に集まって重なり合っていく。映像にしろ音にしろ、経過に緩急をなるべく付けないようにしている感じがする。周囲を敵に取り囲まれているという設定なので、浜辺で救出を待つ者たちは、不断にほとんど一方的に攻撃を受けるばかりなのだが、しかし空の戦闘でも、浜辺の空襲でも、敵はあるときふいにやってきて、戦闘がゆったりとはじまるような感じだ。これもぼんやりと不安な悪夢を見ているのようだ。出血とか肉体破損の描写はおそらく意図的に排除されていて、全編通じてドイツ兵の姿もまったく見えない。空襲を受けて大きく傾き沈没していく船の中に海水がなだれ込んできて、多くの兵士が溺死したり助かったり、ボートに乗れたり乗れなかったり、傾いた船によじ登ろうとしたり飛び降りたり、海に不時着した戦闘機のパイロットも危うく溺死しそうになったところを救助されるなど似た出来事が複数個所で起こり、空中戦は快晴の空の下で飛行機たちがお互いを見つけたり見失ったりしながら感情を抑制しつつ静かに戯れているかのようで、どこまでも透明で遠くまで見渡せそうな空気に満ちた景色のなか、戦闘機の機体表面や、傾く船のリベットが整然と打ち込まれた側壁などの金属の質感。船も戦闘機も新品のようななめらかでうつくしい表面をもち、何艘もの船が海を行く姿も、大きく傾いたり船尾を残して水没した船さえ、まさに夢の中の景色のようだ。おそろしくクリアに映し出された、光と、空や海や砂浜と、金属物質の在りよう。じっと受身で、それを見続けていることしかできない。