つゆのあとさき


朝起きて朝食。その後、シャワーを浴びて、缶ビールを一本空けたら、なぜか酷く胸焼けがして不快感があるので漢方薬を飲む。永井荷風「つゆのあとさき」を今日読了する。久しぶりにまた人物をモチーフに描いてみたいと読んでる途中で何度と無く思った。人物を描くというのは人物そのものを描くということではなく、この小説の登場人物の、その都度ごとの場面におけるたち現れ方のような、こういう感じを引き出すことなのだと思った。この女は、こういう性格で、こういう身分の、こういう女です。という説明を超えて出てくるような、人物がいわゆる「人物」の澱を剥落させて、そこに居るかのごとき瞬間が素晴らしいのだ。まあでも、具体的にどうすれば良いのかはわからない。まあ、そんなことはどうでもいい。


それにしてもこの主人公の女給と、パトロンの奥さんとの、そのキャラクターのコントラストが素晴らしく鮮やかで、そのことがまるで残像のように、いつまでも鮮やかに記憶に残る。異なる性格のふたりの女性を、小説はことさら比較させたりせず、ただ放擲するかのようにそれぞれを配置しているだけなので、そこがとても素晴らしい。ほかにも、色々素晴らしい。じつは読んでるときは「しかし僕はこのクソ暑い最中になんというエロ小説を読んどるのだろうか」と思うこと多々あったが、でもそこが良かった。基本、あとになって思い出されて、そのことが良いのだ。最後も良かった。終盤、川島の「世の中はなんといってもやっぱり酒と女だな(中略)おれ見たようになっても、赤い布団を見たり、一杯飲んでぽうっとすると、やっぱりむらむらとしてくるからな」などというセリフに大笑いしてしまった。