鴨せいろ


いつものせいろではなく冬季限定の鴨せいろを注文した。鴨は久しぶりだったが、実にうまかった。しなやかで弾力のある、まるで血の塊のように濃い味の歯ごたえのある肉で、それを噛み砕き、染み出る旨みごと吸い尽くすようにして嚥下する。香り高く実に旨い。焼き葱も絶妙に旨い。冬の凍てついた土と雑草の香りがそのまま感じられるような厳しくも懐かしいあじわい。三枚のせいろを平らげ、蕎麦湯を注いでは啜り、たっぷり二杯分くらい使って最後まで飲み干し、ぐえーっぷはーっと息を付きながら会計する。20年以上前に亡くなった伯父が、食事の後、下腹部をさすりながらげーっとげっぷをしつつ寝そべっている姿が、そのときだけ、一瞬自分にのり移っているかのような錯覚を、蕎麦を食い終わった瞬間はいつも感じる。