事務職


リストを作成した。シンドラーのリスト。このリストの外側は死の淵…というのは嘘で、むしろこのリストの内側が死のフィールド…。というのも嘘で、そんな大層なものではない。でも世界の歴史上、過去の様々な局面で、本当の意味での「死のリスト」を作成した事務職の人も無数にいた事だろう。目をしょぼしょぼさせながら、ひたすら地味にこつこつと、人の名前をリストしていったのだろう。リストを作り終えて、肩から腰にかけて満遍なくコリが広がっていて、椅子から立ち上がって思い切り背伸びをして、そのまま肩や腕を軽く回して首をぐるぐると二回くらい回して、そのまま深呼吸したあと、あらためて自分がたった今作り上げて机上にそろえてあるリストを見下ろした事だろう。そしてそのまま外套を着て事務室のドアを出て施錠して、夜の街を通り抜けて、いつものように家路をいそいだことだろう。


駅の改札を出て外に出たら、いきなり雨が降っていたのでかるく驚いた。仕方がないのでそのままバスに乗った。最寄のバス停で下車したら路面は濡れているがすでに雨はやんでいた。こんなにすぐやむとは思わなかった。大浴場の入り口付近みたいな、湿度をたっぷりと含んだ濃密な空気がたちこめていて、顔にあたる風がなまあたたかかくて妙に肌に心地よくて、歩いて帰ってくれば良かったと軽く後悔した。