非実在青少年


昼に食事に出た。上空から日差しが降り注いでいて周囲の事物すべてが真っ白になってそのまま天地がひっくり変えるほどの勢いで春が息づいている陽気の中を、風を切って歩いた。注文して待つ間にも、客がひっきりなしに引き戸を開けて店内に入ってくるので、そのたびに戸ががらっと開くたびに、春の涼しくてにおい立つような風がさーっと入ってくるのがあまりにも気持ちが良い。あまりにも快適なので思わず気を失いそうだ。


すみません、すみません、ちょっといいですか?私の名前がそのリストに載ってますか?いや、載ってないですよ。何のリスト?今日のレジュメです。載ってないですか?載ってないです。何かの間違いでは?え、あぁそう。…


朝から午後にかけて、向かいの席に居る彼が、死のリストを作成しているちょうどその頃に、僕はこの文章を書き始めていたところだったと思う。年齢又は服装、所持品、学年、背景その他から、ある年齢を想起させるような雰囲気の人物を登場させようとして、その書き出しの感じを考えていた。そのかれは、この文章の登場人物として、唐突に今、いきなりここに生まれた。僕が書いて、それで生まれた。そしてこのあとやがて、かれは性交する。あるいは性交類似行為に係るだろう。そのみずからの姿態を、視覚的に、みだりに、性的な対象として、肯定的に表象せしめようとこころみるだろう。彼を「非実在青少年」と呼ぼう。春の涼しくてにおい立つような風のような、すべてが真っ白になってそのまま天地がひっくり変えるほどの勢いで息づく春の陽気のような、彼のこれからの、視覚的な、みだりな、肯定的な性交類似行為がたちあらわれる瞬間を想像する。かれに「非実在青少年」として立派な、誰にみせても恥ずかしくない振る舞いをさせなければいけないと思った。