帰路


自転車に乗った人が、僕を追い越して走り去って行った。その後、行った先の赤信号で止まっていた。自転車はこころもち斜めに傾き、自転車の人は自転車のサドルにまたがったまままっすぐな片足を地面に立てて自転車を支えていた。僕は、その人の隣に並んで信号が変わるのを待った。十秒ほどして、信号が青になって、自転車はぐいっと進んで、横断歩道を渡った。僕も歩いて渡った。自転車は、そのままどこかへ走り去ってしまい、姿が見えなくなった。僕は、歩道を歩いて数十メートル先のコンビニに立ち寄った。ドアを開ける直前、たまたまレジの人と目が合った。レジの子は、こちらを見るともなくぼーっと見ていたが、僕がドアを開けて店内に入ると、何事もなかったかのように目をそらして、いらっしゃいませーと、決まり文句のように言った。僕はビールを冷蔵庫から四本取り出し、かごの中に寝かせて、それを持ってレジで会計した。八百六十円なので千円を出し百四十円のお釣りとレシートを受取った。小銭入れをしまい、店を出ようとしたら、外から店に入ってこようとしている人がいて、ドアのそばですれ違った。相手がドアを押したので、僕がそのドアを持って相手が通り過ぎるまでしばらく待った。ずかずかと、大股で、その人はコンビニに入ってきた。その着ているワンピースの模様を見て、ああ、さっき自転車に乗ってた人か、と思った。それをわかりながら、僕はドアを引いて店の外に出て、脇のゴミ箱にレシートの紙を投げ入れて、左手の人差し指と中指にコンビニの袋を引っ掛けて、その重みを感じながら歩いて家まで帰った。