死のクルマ


これはやばい。本格的に来た。ついに年貢の納め時かと思ったら、今回はセーフだった。なんだこの心臓の悪さは。思わず電話の相手に「ジェットコースター乗ってるんじゃないんだからさぁ…」と呟いてしまう。


死のクルマ。次に誰が乗るのかのくじ引きが毎日行われていて、皆がじっと待機している。べつにここにじっとしてなければならない訳じゃないし、逃げ道もいくつかは思いつくけど、でもどうあがいても結局は、最後には人に頭下げないと、生きていけないのは変わらない。だからそこはもう、仕方がないじゃん、観念しなさいよ、との事で、まあたしかにね、ということで、現状きれいさっぱりあきらめた。やがて別室に呼ばれて、結局自分が乗る事になった。運命確定。自ら行く、とまでは云わなかったけど、でも自分のまなざしが結果的には相手にそう感じさせてしまったかもしれない。恐怖と不安と怒りと悲しさで、もう沢山だ、もう懲り懲りだから、むしろ早く俺を乗せろ、という表情で相手を凝視してしまっていたのかもしれない。いずれにせよ、いまはなるべくさっぱりした気分でいることにする。喜びであれば、水が湧くみたいにさーっとあふれてすぐに乾いて跡形もなくなるように喜びたいし、怒りをあらわすなら圧縮した光で相手を射抜くような白熱の怒りを放ちたい。そういう感じで自分というシステムを稼動させるように準備をしておきたいと思っていた。朝の澄んだ空気。秋がきた。とてもさわやかな一日のはじまり。


去年からお互いずーっと一言も喋らず目も合わせなかった人と、エレベータに乗り合わせたので、久々に話しかけてみた。俺もついにあれに乗る事になっちゃったよと言ったら、相手は静かな微笑をもって、あぁそうなんだ、ついに刀折れ矢尽きたな。四面楚歌だな。万事休すだな。と言った。そうだねと言って自分も笑った。相手もそれに応えて朗らかに笑った。なんの他意もない笑顔に見えた。


まあ結局ドタキャンになって、またしばらく、このままの日常が続くらしい。でもいずれ乗ることになるだろう。こんな毎日せいぜい半月程度しかもたないだろう。そう思ってた方が精神衛生上いいってものだ。