幽霊の小説


古谷利裕【「二つの入り口」が与えられたとせよ】を読む。非常に薄気味悪く、怖い小説。僕は正直、結構こういう怖さは苦手だったりする。しかしここにある薄気味悪さ、この禍々しさはかなり本物だという感じがする。本物の怖さに満ちていて、そして作品全体が異様に高密度で重厚である。ほんとうの幽霊の気配を感じる。僕はとりあえず一読して、この作品を幽霊についての小説だと思った。幽霊の尻尾を捕まえるためにかなり用意周到に巧妙に仕掛けられた罠、という感じにも思った。トラップに掛からないために自らもトラップと化す。目には目をの流儀で。幽霊というものを小説によってとらえるための、ある強烈な冒険が仕掛けられたその手に汗握る記録、というような、目くるめくプレイの、鮮やかな、ある種の爽快さのようなものも、ひょっとしたら感じなくもないかもしれない。…そして最後の淡い感動が何を意味するのかは自分にもよくわからないのだが、しかし結局何処にもいないのだが、そうであるがゆえに何処にでも偏在しているかのようでもある「私」のまなざしと、まるで最初からそうであったかのように夕陽の中を孤独に道を歩く「あなた」のラストシーンには。