地震


足元が傾いて身体が揺らぐような感覚をおぼえて、あ、地震かもと思った直後、まるで巨大なハンマーがビルの外壁を猛烈な力でガンガンと叩き続けているような轟音に驚いて、それは巨大なシャッターが外枠からの力に軋んでいる音だとわかって衝撃を受けた。時計を見たら午後3時前だった。その後しばらくの間、激しい音とともに、船に乗っているような揺れがいつまでも続いた。ビルのエントランス部分のだだっ広い無機質な空間の真ん中で、周囲が猛烈に揺らぎ、軋み、唸りを上げるその一部始終を僕は一人でなすすべなく見ていた。そしてあと何秒か、あるいは何十秒かしたら、もしかするとこのままついに死ぬかも、と思った。死ぬか死なないかかは、この僕の中での判断を超えるところで決まるという事を自分に納得させようとして、激しい胸の高鳴りを抑えようとした。やがて揺れはおさまり、しばらくしてから非常階段を上りオフィスに戻った。しかし戻ってからも断続的に余震が続いた。それから二時間たっても状況は安定しなかった。携帯電話は呆れるほど何の役にも立たなかったが、アクセスさえ出来ればネットワークは強靭だった。頻繁な余震のたびごとに建物はまるで水に浮かぶ木の葉のごとく揺れた。


われわれ人間よりも遥かに巨大なとてつもない力がどこか遠くから、すさまじい轟音をともないやってきて、最初は下から断続的に突き上げる深い低音として床を揺るがし、やがてビルの周囲を取り囲んで、後はもう、建物や防御対策や人間がそれぞれ順番に個別に単体的に耐えられるか耐えられないかの、ただそれだけの事でしかなかった。しかしだからこそきっと何事もないと思いたかったし、何事かが起こりうるという可能性をうまく想像するのはやはり難しかった。そして僕は結果的にやはり、今までと同じように幸運だった。その後、何度か外の様子を見に行ったり待機したりしていて、結局午前四時過ぎに同僚3人揃ってタクシーで勤務地を出発。事務所を経由しつつ朝方電車と徒歩で家を目指し、僕は午前10時過ぎに帰宅した。帰って少し寝てその後はずっとテレビを見た。