ガラス面


山手線の、扉の脇に立ってぼんやり窓の外を見ていて、ガラスの向こうは真っ暗な夜で、時折看板や自動車のヘッドライトの光が電車の進むのと反対の方向へ流れていき、そんな外の景色と重なって、車内の様子もそのままガラス全体に映りこんでいて、目の前の僕が黒い影になって映っているその周りには、網棚やつり革手摺りや、天井の蛍光灯や床や、座席に並んで腰掛けている人々の俯いた頭や、立ってつり革につかまってじっとしている人々の髪や背中などの、車内の空間とそこにいる人々全体が、外の真っ暗な夜の景色と重ねられて、黒い夜の中に私たちの空間が浮かびあがって、車内にいる乗客が、幾人も夜の空間にいきなり浮かんで、中空に立ってるみたいな感じに見える。その人々の身体を通り抜けて、光がすべり流れていく。そういうのをぼんやりと見ながら、そんな景色のことなど何も考えてはおらず、この後のこと、すぐ明日のことなどを、考えている。電車が減速して身体が前の方にぐーっと引っ張られるのを、つり革に掴まった手に力を込めて支える。腕を固くする。つり革は少しベタベタしてる。電車が明るいところに入ってきて、もう駅に着いた。上野、上野です。上野を出ますと次は鶯谷に止まります。待ち合わせの集合時間にはこの時点で少し遅れている。