待合

上野駅の手前で電車が止まった。時刻はもう夜の九時過ぎで、乗客は少なくはないが座席はまばらに空いていて、立ってる人はほとんどいない。安全確認が終わるまでお待ちくださいとアナウンスされて、その後、とても静かになった。電車の中で、誰もが無言でいることは珍しくないけど、電車が停止して走行音そのものが消えてしまうと、あたりに思ってもみなかったような静寂がおとずれて、その空間がじつに不思議な、謎めいた場所に感じられることがある。

あたりがシンと静まり返っているのが強く意識されて、その場が電車の中ではなくてどこかのホテルのロビーや待合室のような、だだっ広くてうすら寒くて寂しさと心細さが身体の芯にまで沁みとおってくるかのような、高い天井の下に大勢の人々が、それぞれ無言のまま俯いて何かを待っている、あるいは今この時をやり過ごしている、見えない雪が静かに降り積もるかのような静けさのなかで、それぞれが、じっと何かを待つだけの、そういう場所に、なぜかいまの自分が紛れ込んでいる。