重さ


心配事が薄らいでいく。薄らいでいくことに気付いた、

というよりも、それがひとりでに薄らぎ始めた、その瞬間に気付いた。

この場への意識を失くし始めた。

緊張感をなくしていた。

緊張を保っていたことに、それで気付いた。

雲散霧消し始めた。雲散霧消の始まりに気付いた。雲散霧消な情況に気付いた。

いや、雲散霧消そのものに気付いた。

ふと気付いた、気付いたことに気付いた。

今どこに居るのかを、やっと今、思い出した。

瞬間、はっとして手で抑えた。

ということは、手から力が抜けていた。それに気付いた。

それまで、手で抑えていたことに気付いた。

手で抑えていたはずのものが、雲散霧消し始めて、手から力が抜けて、

手に何か持っていた。

手に何か持っていたことが、すでに過去である事に気づいた。

はっとして手で抑えたことで、それら何もかもに気付いた。

手で抑えたものすべてに気付いた。それがどこかわかった。

文庫本のページから、挟んでいた指をそっと離した。

柔らかい紙がくしゃっと皺になって、斜めに折り目がついていた。