ゴンドラ


 一階から三階まで直結しているエスカレーターに乗って、斜め上の方向へ上昇しながら、左手の一面ガラス張りになった外側の景色を見ていた。

 上昇するにつれて、フロアの床面はあっという間に遠ざかって、外の景色も見下ろす視点へとみるみるうちに変わる。

 窓の側に高所作業用らしき台が設置されている。台から鉄の柱が上方向に伸びて、その上のゴンドラに乗っている人が、窓拭き掃除をするためにいるのだろう。

 鉄の柱というのが、太い支柱のようなものではなく、細長い鉄の板を組み合わせたような、大変華奢な感じの、要するに互い違いに、蛇腹のように交差し合った形というか、ぐいっと伸ばすと、連続した菱形のかたちがいっせいに縦方向へ伸びるような、そういう構造の足で、その上に乗っかっているゴンドラも、心なしか地面に対して微妙に傾いてるような感じもある。

 台から伸びた足は完全に伸びきっている。ゴンドラは大体二階の窓の高さに位置している状態だ。台上の作業員はかなり必死の表情で、片方の腕はゴンドラ台の鉄柵を強く握り締め、もう片方の腕は窓ガラス淵の出っ張り部分をつまむようにしている。そしてそのままじっと動かない。あの高さに昇っただけで、もう精一杯という感じで、清掃以前の段階という印象。

 いったい、何が目的なのか。あの後、いったいどうするつもりなのか。それがよくわからない。あのまま掃除ができるとは思えない。第一、掃除用具を持ってなさそうだ。ためしに昇ってみただけなのかもしれないが、それにしても怖がりすぎだ。元々高いところが苦手なんじゃないのか。いったいどうするつもりなのか。

 そんな様子を見下ろしているうちに、エスカレーターはどんどん昇り、やがてゴンドラ台の作業者も地上に居る人と変わらないほどの小ささになった。降り位置に来て、エスカレーターを降りた。

 三階フロアに着くと、エントランス・ロビーの広大な空間が広がっている。左手の窓際にはソファーセットが二つ並べてあり、その奥でチェーンのコーヒーショップが営業している。