両国

江戸東京博物館に行った。とくにこれが観たいとかそういう目的もなく、ただなんとなく行って、二時間ばかり見学して帰ってきた。ここ、たぶんもう十年近く前にも一度来たことがあるはずだが、いつ何を目的で何を観たのかまるで思い出せない。もしかしたら今日と同じくとくに無目的に来たのかもしれない。それにしても今更ながら、何という奇抜な建物だろうか。この建物については、すごく有名だし竣工以来もう散々批評批判賞賛揶揄罵倒その他いろいろと言われてるだろうから今更僕がどうのこうの言っても無駄だし無意味だとは思うが、それにしてもやはりこれはすごい。地面と数十メートル上空に覆いかぶさっている建物の裏側とに挟まれた広大な空間がずっと先まで広がっていて、その空しい広さに驚かないわけにはいかない。広さというかスケール的に狂っていることの謎な不安感につつまれる。


左手にある窓口で入場券を買って右手にある入口から入場する。エスカレーターに乗って五階か六階まで上がる。窓もなく昇りながら館内外の景色を見渡せるわけでもない、筒状の狭くて暗いエスカレーターである。この「昇り」に意味があるのか全然わからない。よく子供向けのアニメ漫画に描かれる宇宙船などの、浮かんでる船底から唐突ににゅーっとパイプみたいなのが地面まで降りてきて、そこから乗り込むみたいな、事前設定ではなく作画の都合上とりあえずそのあたりから搭乗させてしまえみたいな、そんなその場の思いつきで作られたような建物への入り方である。そして館内も、薄暗くて窓もなくて密室的なのだが、それでも今、自分が地面から数十メートル上空にいるのだという意識は薄っすらとある。真夜中の飛行機みたいな感じもする。古くてガタガタ揺れる飛行機のほんとうに信じていいのか不安になるような頼りなさに近いものを感じている…とまで言うとさすがに言い過ぎか。でもデカすぎるもの付きまとう特有の不安感というのはあると思う。デカ過ぎて部分の印象を繋ぎ合わせても全体のイメージを把握できない、想像だけでそれの完全性を信じるしかないときの気持ちの頼りなさ。