五人の女子高生が、五台の自転車に乗って走っている。前を走る二台が速度を緩めたので、後ろの三台も速度を緩めて、車間距離を保つ。ハンドルを小刻みに動かしてバランスを取る。前輪のタイヤが何度も地面を踏みしだいて、ゴムの表面が砂利にこすれる。ペダル部分の滑車が空回りする音がする。ペダルに一瞬だけ力が加わってそのたびにチェーンが一瞬たわみを失ってチェーンカバーを叩く。チェーンが多角形のかたちで歯車の周囲に巻き付いてゆるやかに歯車を回す。金属の薄い鉄板とワイヤーとのぶつかり合う音。惰性でホイールが回転している間の、空回りしている回転軸の中の歯止めがかちかちと鳴る音。五人の女子高生の足元で、五台の自転車のそれぞれの駆動部分の金属同士がそれぞれお互いを打ち付けあう音が五台の各部位から盛大に鳴り響いて、五人の女子高生がそれを、それぞれの両足で挟みつけながら、五台の自転車にまたがった五人の女子高生が、それぞれサドルに固定された身体の過重位置をずらしたり移動させたりしながら、ふいにバランスを失いそうになるのを、五人それぞれが小刻みなハンドル操作で耐える。五台のうち一台の自転車の倒れようとする方と反対の方向へ自分の身体を投げ出しかねないところまで思い切り捻る。五台のうちそれぞれのバランスが、お互いに支えあうことなく各自の努力によって自律的に制御されている。したがって五台の編成形態と距離もそれぞれの意志によって成り立っている。重力の下で、バランスの按配に対する妥協点を図る努力が五人によってめいめいに試みられている。五台の自転車の各前かごには、女子高生の所持品らしい荷物がそれぞれいっぱい入っている。前かごの装着された前輪部分の重量はかなり増加していて、ハンドルを支えるにも片手だけでは辛い。それでも五人の女子高生はハンドルを持つ手が時折は片手だけになるときがあって、そうすると前輪は重さでやや右側へ傾こうとするのを手で抑える。抑えることでむしろ適切な力の按配を見失って、今度は左へ傾こうとする自転車を立て直すために、さらにそれを抑えて、また逆に右へ傾こうとするなどして、じょじょに制御不能になって、車体が大きく揺らぐ。五台の自転車がそれぞれ、場合によっては大きく揺らいで傾く。女子高生があわてて両手でハンドルを抑えて、そこを踏み止まる。やはりそこで耐える。自転車は、かろうじてまた進むべき方向へ進む。たどたどしくもゆっくりと蛇行しながら進む。そのように五台の自転車が互いに、ぶつかりもせず離れもせず、適度に間隔を空けながら、五人の女子高生のハンドルを持つ手とペダルを踏む足によって、きわめて低速でふらふらと不安定によろめきながら走る。