編隊


五人の女子高生が、五台の自転車で、お互い寄り集まって、編隊を組んだような状態で、ふらふらと、ゆっくりと走っている。女子高生たちはお喋りに夢中で、たぶん学校の教室や廊下で喋ってるのと同じように喋りあっているので、自転車のハンドルを持つ両手は、がくがくと左右に小刻みに動かして、ペダルを慎重に踏んでは戻し、そんな感じで、五人がお互いの自転車同士、ぶつかったり群れから大きく外れたりしないように、間隔を適度に空けていられるように調整しながら、ゆっくりした速度で、ふらふらと走り続ける。五人とも、自転車の前かごには、鞄や大きな買い物袋や何かが、色々と一杯入っている。荷物一杯の自転車が五台、寄り集まってゆっくり走っているので、その進行方向から来る他の歩行者や自転車は彼女らを大きく迂回して避けて行く。車道を走る車も、おそるおそる徐行気味に追い抜いていく。やがて、五人の女子高生による五台の自転車編隊は公園の入口にさしかかる。広場のようになって空間にゆとりができて、自転車同士の間隔もやや広がるかと思われたが、予想に反して編隊の隊列形態は変わらず、そのまま進み続ける。と思ったら、先頭の自転車一台の前輪の向きが、くるっとこちらに向いた。と思ったら残りの全台も同じように、前輪がくるりとこちらを、すなわち今、この僕の居る方角へと向きを変えた。相変わらずよろよろと低速で不安定な様子のまま、五台揃っての旋回を完了して、自転車の編隊はいきなり僕の方向に向かって近づいてきた。僕は驚き、どこへ避けるかと思って周囲を見回した。運の悪いことに丁度、僕の居る場所だけ、左右に花壇があって道幅が狭いのである。脇に避けるのは難しい。だとすると、あの編隊の真ん中に、僕が侵入していく可能性が高い。それは、かなり危ない。彼女達は僕を通り抜けさせるたけに、それぞれ車間を開けてくれるだろうか。開けるといってももはやここまで近づくと限界がある。それに道幅がない。あの前かごに一杯入った荷物の一部が、僕と接触するかもしれない。ふらふらと、小刻みに動かされて何度も地面を踏みしだいているような自転車の前輪が、僕の足を踏むかもしれない。ハンドルの下に突き出たブレーキレバーの突起が、僕のコートの袖の部分に引っ掛かって、そのまま腕ごと持って行かれてしまう。ボーリングで、11ポンドのボールを選んだときの、思いのほか指の穴が小さくて、一旦、三本の指を挿入したら、なかなか抜けず、そのまま僕が投球する番になって、仕方がないので、指の抜けないままのボールを、自分の顔の前に持ってきて、その格好のまま真剣に遠くのピンを見据える。そのままレーンに向かって前進する。同時に腕を下ろし、停止線の手前くらいで腕の勢いを最大になるよう振り下ろして行き、停止線と踏み出した足の爪先が設置するかしないかのタイミングで振り下ろされた腕が体より前にいって、ボールが手から離れて、鈍い音を立てながら横回転の動きを球体の表面に浮かべながら、ボールがレーンを転がっていき、やがてこちらの出来事とは別世界のように、ピンがボールにあたって弾けて倒れる音が響きわたる。白いアームのようなものが上から降りてきて、倒れたピンを一気に片付ける。それは想像のイメージで、実際は、せっかく腕を思い切り振り下ろしたのに、指からボールが抜けなくて、そのまま腕がボールの重みに引っ張られたようになって、体ごともっていかれそうになり、かろうじて踏みとどまったかと思ったら、それでようやくボールが指から抜けて、一瞬ボールは中空に浮かび、そのまま、ピカピカに磨かれた自分の足元のレーン上に、すさまじい音を立てて垂直に落下した。落下したボールは、力なくよろよろと、右端のガーターゾーンに転がっていって、後は溝にしっかりと嵌ったまま、のろのろといつまでも溝の上を転がって行った。そのときおそらく僕の鞄は、丁度すれ違っているときに、彼女の肩か顔に当たってしまい、彼女は自転車から派手に落馬した。もんどりうって転んだ。背中から地面に落ちたと言って良い。一瞬呼吸が止まる。咳も出ない。しかも落ちたとき、ポケットからはみ出していたウォークマンのイヤホンのケーブルが自転車に引っ掛かったようで、それに引き摺られるかたちで、砂埃を濛々と巻き上げながら彼女は市中引き回しの刑みたいに、両手をバンザイの格好に上げたまま、どこまでも引き摺られていく。僕は咄嗟の判断で腕を伸ばし、主のいなくなった自転車のブレーキレバーを片手で掴み、腕一本の力で体全体を浮かばせて車体に密着させ、しがみつくようにして進行方向とは逆向きにその自転車に馬乗りの状態で乗り込む。引っ掛かっていたイヤホンのケーブルを見つけて、踝のところに装着されたナイフを出してそれを切った。泥だらけになった彼女が、呆然とした表情で遠ざかっていく自分の自転車を見つめる。僕はそのまま、自転車のサドルの上に立って、勢いをつけて隣の自転車に飛び移って、さらに隣の自転車にも飛び移って、ようやく先頭を走っている幌馬車のすぐ後ろまでたどり着いて、幌の柱にしがみつくために、意を決して、再び思い切りジャンプする。