不忍池


上野の不忍池に、蓮がこれから生い茂り始めるはずだが、まだ水面に去年の枯れた茎が無残に突き出している枯れ野原みたいな状態で、ただし少しずつ、新しく生えてきた鮮やかな黄緑色がところどころ増え始めたところだ。大きな葉が、いくつか水面に浮かんでいて、葉の上に乗った水が、そのままころころと転がるような水滴になって、葉の上でガラス球のように光っている。あれはなぜ、あんなに大きく丸い水滴になるのか。水じゃなくて油のようにも見える。レタスの上の、透明なサラダドレッシングのようだ。蓮の葉自体に、なにか水をはじくような表面的な特長でもあるのか。葉の上の水滴は透明でキレイなのに、池自体は汚い暗濁色に澱んでいる。そして巨大すぎる鯉がうようよと泳いでいる。柵の前でじっと見ていると、餌をもらえるとでも思うのか、こちらに向けてうようよと集まってくる。お互いに身体をぶつけ合いながら、狭いところにひしめき合って、口をぱくぱくさせて、さらけ出した口腔内をわざわざこちらに見せ付けるようにして、なんともおぞましい感じである。小動物や、下手すると人間でも喰いそうにみえる。この池に落ちたら大変なことになる。鯉の、細かい傷に満ちた、固い鱗に覆われた身体をくねらせて尾びれを水面に打ち付けてぐっと水底へ戻り、それで水が跳ねて顔や手にかかり、とても汚くて皮膚が火傷したような思いをするほど水は汚れていて、それが蓮の葉に乗って、丸くなって葉の上を転がりながらぎらりと光っている。