小林さんの入社は70年代半ばのはずで、検索してみると、最古のデータとしては76年とかそのあたりのものが引っ掛かってくる。さらにそれより古いデータとしては、閲覧専用にかためられた不可逆アーカイブファイルもあるようだ。これらの元データはおそらく、60年代とか、場合によってはもっと古いものかもしれない。

 検索のスピードが極めて遅く、かつサーバーへの負荷も大きいので、普段あまり堂々とこういった検索はしない。そもそも、いま探しているのは業務にまったく無関係なデータで、さすがに日中おおっぴらにやることじゃないのだが、幸か不幸か今はそれができる。せっかくだから、こういうときに色々な条件を与えて、思い切り検索実行してみて、いったいどの程度のレスポンスが見込めるのか感触として知っておきたいというのもある。

 条件をセットして、叩いて、筐体の内側が唸っている音に耳を澄ましながら、しばらく待つ。休日の昼間の、外の喧騒が、窓を隔てて楽しげな雰囲気で聞こえてくる。やがて、結果セットが返る。息もたえだえ、渾身のちからで描画を終えたという感じ。

 データとしてもっとも厚みがあるのはやはり80年代半ば頃で、全体の半分以上がその数年間に集中している。

 その頃の小林さんといえば、おそらく四十歳を過ぎたあたりの、生涯のうちで、もっともあぶらの乗った時期だった筈で、当時の実績は今でも記録に残っている。というか、そのときの実績がすべて、と言っても過言ではないだろう。

 報告書や、仕様書の草稿や、連絡関連書類など、雑多な資料を眺めながら、たとえばファイル名だとか資料の序文に残る、小林さん、という人物の仕事の匂い、というか、その運用のニュアンス、物事の運び方、リズム感、とでも言うべき何か。

 プロジェクトの規模も大小様々だが、みていて面白い、と言うと悪いが、やはり興味深いのは、いわゆる「火を噴いた」プロジェクトの記録だ。納期オーバーしてメンバー全員残業や徹夜続きとか、トラブルで客先と揉めてるとか、その手のドキュメントは、まるで災害の報告書を見ているような切実さと悲惨さへの同情心と野次馬根性のないまぜになったような複雑な気分で、いつまでも見ていて飽きないのだ。