金曜日の夜で嬉しい。ああ、この後ディスクユニオン行って、そして、どこかで何か飲もうかなあ、久しぶりに、湯島まで移動して--と、上野界隈の景色を頭の中に想像した。中央通に差し掛かるまでの道をずっと歩いていく。夜の繁華街である。信号を渡って、御徒町の近くまで来ると、人通りが多くなって歩きにくくなる。右に行くか、左か。真っ直ぐ行って仲御徒町の先まで行くか。久々にこのへんに来たなあ、などと想像のなかで歩き回る。


結局は、ユニオンを出たあとすぐ帰った。店は混んでいて活気がある。レコード屋に活気があるのはいいものだ。あと、新御茶ノ水の駅から階段を降りて改札まで行く途中のところが物凄く変わっていて、いきなり広く吹き抜けになっていて見上げると外の景色と夜空が見えている。周囲に新しいお店がいくつも出来ている。新御茶ノ水の駅とは思えない。というか、いきなりここまで大規模に変わると、駅周辺の全体的な地理感をまるで想像できなくなってしまった。よく、それまで建っていた家が急に壊されて跡形もなくなった後、その家で遮られていた向こう側の景色がとてつもない違和感で目の前にあらわれているときの感じというか。いや自分の長年住みなれた家が、立て替えとかで壊されて、見慣れた部屋から先の景色が壁ではなく外の景色になってしまっていて、自分のいつもいたこの場所と、外のこの木がたったの1メートルくらいしか距離として離れてなかったことに気付いたというか、いやむしろ距離の感覚が強烈に揺らいで、自分のもっていた距離感覚と空間感覚がまったく麻痺する感じというか。自動車が壊れてドアが外れてしまって中の乗車人員の身体が丸出しに見えてしまっているときの感じというか。駅のベンチで鞄の口をおおきく開けて探し物をしている人を見たとき、その鞄の中身が、何がどういう配置と順序で入っているかまで全部外から見えてしまっている感じというか。イカの胴体に包丁を入れて目の下のところをぐっと指で押さえると真っ黒なスミが出て目玉が二つ押し出されてあとは胴体に入っている塩ビ版のようなうすい甲羅みたいなやつがすーっと抜けたときの感じというか。