シネマート新宿でホン・サンス「自由が丘で」を観る。ばらばらになって順序のおかしくなった何枚かの便箋に書かれた手紙の内容?その手紙を読んでいる人物の想像の世界?もっと別のこと?単なる時系列を捻った、というだけではなく、現れてない、言えてない部分の残し方がきわめて洒落ているというのか、真実が一個あって、その変奏で、みたいなこととは根本的に違う、独自の構築方式、いわば独自の現実が成立していて、まるでその場面に、人がいて、反対側からもう一人来て、向かい合って会話が始まって、そのあとずるずるっと消えていくまでの、その出来事がまるで、こちらの立場から見れば、どう考えてもそれは不自然に目の前に貼り付けられているような感じなのに、このいつもながらのホン・サンス的な、虚構感、という言葉では、ちょっと違う、何か居心地の悪い、その裏側に蠢く無数の流れの一部でしかないものだけでできた表面部分を見ているような。見た目は凡庸な箱なのに、中では奇怪な躍動がひたすらガリガリと動作しているかのような…。しかも、それを、謎の感触として後味に残すわけでもなく、ああ終わった。と言って苦笑・・みたいな感じで劇場を出るしかないという、まさにホン・サンスな感じである。