Matsuda


住宅街の中にぽつんとあるあの集会場で、たとえば今日唐突に、何か催しがないかな。建物はまだ新しいし、中の設備を有効利用できる。給湯室はちゃんと機能していますからお茶は出せます。参加人数は?椅子は充分足ります。一番広い部屋を使います。集まりましょう、集まりましょう。本日です。今の時代、若者が自動車離れですわな。煙草も酒もしませんし、居酒屋にも参りません。お洋服も廃れて、それで身体も廃れて、そうすると顔が廃れてきますわな。となると、視線というものが廃れてきますわな。そこまで行くと、今度は視線の先まで、廃れるじゃないですか。これは大問題です。それを聞いた僕は激しい勢いで挙手して猛然と立ち上がった。貴方たちがもっとできる事はないんですか?調査と操作は紙一重と言うではありませんか!?聞き方の問題ではないんですか?私はこの近辺のおだやかな雰囲気が大好きだ。ゆたかな暮らしだと思っています。それを忘れて貴方は無いものを有ると言う。すると、さっきから黙して座していた一人の紳士が、静かに立ち上がった。私はそちらをふりかえって驚いた。もしやあの方は、松田春翠活動弁士にして1952年マツダ映画社を立ち上げた初代代表の姿だ。今までその場所に居られたことに、なぜ誰も気付かなかったのか。マツダ映画社はこの集会場から徒歩一分足らず、足立区東和三丁目に今も存在するサイレント映画専門の日本の映画会社である。